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人事のプロフェッショナルに聞く――“信頼経営”による社員と企業の新たな関係

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2020/10/30

働き方改革の旗印のもと推進された、テレワーク。そのメリットを認識しながらも、日本企業の多くは消極的な態度を示していた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、ほとんどの企業はテレワーク導入に大きく舵を切ることに。かつてない変化を求められるこの時代、企業は今後どのように対応していくべきなのか。楽天のグローバル人事部長やウォルマート・ジャパンの最高人財責任者(CHRO)を歴任した後、HRテックの統合システムを提供する株式会社Works Human Intelligence(ワークスHI)の最高人財責任者(CHRO)として手腕を振るう野田公一氏に話を聞いた。

日本企業にとって“成果主義”は当たり前

2020年4月7日、日本政府が緊急事態宣言を発令すると、さまざまな企業が追われるようにテレワークを導入し始めた。その動きによって、私たちの働き方は急進的に変化したように見えるが、野田氏は「20~30年前からゆるやかに働き方が変わり始めていた」と語る。

「ITの発達にあわせて、組織の在り方は変化しています。今ほどITが発達していなかった 20~30 年前は、ひと握りの経営陣が意志決定を行い、それを伝言ゲームのように部下へ通達していくというのが通常でした。しかしITが発達した今では、メールやオンラインツールを活用し、組織全体へ一気に情報を伝達できます。IT感度の高い会社は、いち早くこうしたツールを取り入れていたため、コロナ禍においても働き方にそこまで影響はなかったはずです」

緊急事態宣言が解除された6月以降も、テレワークを継続している企業は少なくない。そして、働く場所と時間を自由に選べる働き方が浸透したことで、 “成果主義”が注目されるように。コロナ禍によって台頭したかのように見える価値観だが、野田氏は「成果主義も日本企業にとっては当たり前のものだった」という。

「古くから日本では、会社が上位概念であり、従業員はその指示に付き従うものという考えが蔓延していました。しかし、会社と従業員は、雇用契約で結ばれた対等な関係なのです。会社は社員を信頼し、報酬や制度の面で“働く”を全面的にバックアップする。社員は、その対価として結果を出す。つまり、最近取りざたされている成果主義とは、日本企業にとって、ごく当たり前の考え方。会社と社員、双方の合意に基づいた“信頼経営”を推進できるか否かが競争社会を勝ち抜くためには重要なのです」

“信頼経営”ではマイクロマネジメントは必要ない

「社員と真摯に向き合う信頼経営において、情報の遮断をつくらないことが肝心だ」と、野田氏は主張する。

「とある映画の中で『事件は現場で起こっている』という有名なセリフがありましたが、 組織の哲学を上層部だけが理解しておけばOKという時代はすでに終わりました。実際にお客様と接する環境にある現場の人間にこそ、会社の意思や、そこに至るまでの経緯、背景を共有していくべきです。きちんと情報を与えれば、お客様の声を聞いている中で、社員は正しい意思決定ができるはずです」

また、テレワークが進み、社員と経営陣が直接顔を合わす頻度が減った今、野田氏は、「折に触れて経営のメッセージを伝えるインターナルコミュニケーション」の重要性を説いている。

「たとえば、リモートワーク下では常時Webカメラをオンにして、その働きぶりを記録するようにという通達があると、社員は『自分は信用されていない』と感じると思います。信頼経営においてマイクロマネジメントは不要です。ビジョンを共有していれば、社員がやるべきことを自発的に考えられるようになりますから。信頼経営は社員と真摯に向き合う優しさがある反面、結果を求めるシビアさもあります。そこで、社員が自発的に動けるように、ビジョンやミッションへの理解を促す、インターナルコミュニケーションの重要性がますます高まっていくと思います」

ワークスHIでは、9月1日より正式な就業規則としてテレワーク制度を導入した。この制度によって、全社員が出社や在宅、サテライトオフィスを組み合わせた“最も生産性の高い勤務方法”を利用できるように。さらに全社員にテレワーク手当として10万円を支給。その総額は約1億5000万円にもおよぶが、野田氏は「社員のモチベーションが上がれば必然的に仕事の成果にもつながるので、決して無駄な投資ではない」と話す。

「信頼経営とは、働くバランスを社員一人ひとりに委ねるということでもあります。どの業務は出社が必要か、あるいはリモートにできるのか、社員にはプロとして考えていただく。相互に考え、修正していくことが、ベストな環境づくりを生むと考えます 」

これからの人事に求められる「戦略眼」と「スピード感」

withコロナ時代の人事が高めるべきスキルは2つあると野田氏は分析する。

「ひとつは、戦略眼。戦略人事という言葉もあるように、人事は経営のビジネスパートナーになるべきです。会社が成し遂げたい戦略や、方向性に基づいて、我々は状況に応じた適切な人事施策をとる必要があります」

採用や社員の満足度を高めることも人事の重要な役割だ。そのうえで、各現場の戦略を理解して、問題点があれば改善策を検討することも、これからの人事に求められる役割なのだろう。

「そして、もうひとつはスピード感です。時間をかけ制度を作りこんでから実践、では遅すぎます。効果検証に時間を費やすぐらいなら、いち早くリリースして、社員の声を吸い上げつつ軌道修正していく。朝令暮改を是とする社風が、企業と社員、双方にとってより良い環境を生み出すのです。たとえば弊社では、社内のコミュニケーション活性化のため、『リモートティータイム』をスタートさせました。各部署の社員がランダムに、オンラインで30分間雑談するという試みです。発案者は社員で、すぐに実践されました。社内のナレッジの共有、つかの間の息抜きとして、効果を表しています」

刻一刻と変わっていく世の中で、会社と社員の架け橋になれるよう、日々価値観と行動をアップデートしていく。それが、これからの人事に求められるスキルなのだ。


■会社概要
会社名:株式会社Works Human Intelligence
本社所在地:東京都港区
事業開始:2019年8月1日
資本金:1億円
代表取締役社長最高経営責任者(CEO):安斎 富太郎

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