マンダム 第二マーケティング部 陳佩蓉氏
躍進の秘訣は7年越しのブランド愛
市場の常識を変えるような華々しいプロダクトやサービスが日々メディアに取り上げられる今日。その裏では、無数の挑戦や試行錯誤があったはずです。「イノベーター列伝」では、既存市場の競争軸を変える挑戦、新しい習慣を根付かせるような試み、新たなカテゴリの創出に取り組む「イノベーター」のストーリーに迫ります。今回話を伺ったのは、化粧品メーカーのマンダムで女性向けクレンジングブランド「ビフェスタ」のマーケティングを担当する陳佩蓉(チン・ペイロン)氏。同ブランドの販売を台湾で飛躍させた立役者にその秘訣を聞きました。
マーケティングという仕事との出会い
現在は東京オフィスのマーケティング部門に所属しています。もともとは台湾のグループ会社に勤務しており、研修のために2018年6月に来日しました。台湾の大学では日本語学科に在籍していましたが、日本への留学経験はなく、長期滞在も初めてです。今は新入社員のような気持ちで、毎日ドキドキしながら過ごしています。
大学時代は、自分がマーケティングの仕事に携わるとは思ってもいませんでした。学生時代は、日本語を使える仕事という条件だけで就職先を探していました。最初に入社したのは日系の化粧品メーカーの子会社で、マーケティング部門に配属されました。そこで初めて1つの商品のブランディングをゼロから作り上げることを経験し、その仕事にとてもやりがいを感じました。商品の価値を訴求し、それが生活者に受け入れられ、そこからさらに別に生活者へ広がっていく。そうしたマーケティングのおもしろさに魅了されたのです。
2008年にマンダムの台湾グループ会社に転職し、男性向けコスメブランド「ギャツビー」のマーケティングと並行して、女性向けクレンジング商品の新ブランド「ビフェスタ」を担当することになりました。ビフェスタは現在、国内外ともに順調に売り上げを伸ばしており、台湾での売り上げは3年連続で2桁成長、商品カテゴリ別シェアでも、ローションとシートは2位、リムーバーは3位、クレンジング全体でも3位まで飛躍することができました。
無名ブランドの躍進を支えた地道なサンプリング活動
いまでこそ、世界各国でシェアを拡大しているビフェスタですが、2011年の発売当初は、後発ブランドということもあって知名度もなく、ほとんど見向きもされませんでした。
わたしは2011年の発売時からビフェスタのマーケティングを担当していますが、当時台湾でもマンダムが最も注力していたブランドは男性用化粧品の「ギャツビー」でした。ビフェスタにかける予算も人材も決して多くはなく、販促や宣伝も自分たちの手作りといった感じでした。導入期は新商品が次々と誕生するわけでもなく、マーケティング担当ができることと言えば、サンプリング活動や限定商品を企画することぐらいしかありませんでした。そんな状況が数年続きました。
そんなビフェスタがなぜ躍進できたのかというと、やはり商品力があったからこそだと思います。サンプリング活動は一見地味ですが、あきらめずに継続したことにより、たくさんの方の手に渡りました。その結果、実際に商品の良さを知ってもらうことにつながりました。地道な草の根活動によって徐々に商品認知を高め、さらに2015年にブランドリニューアルを行ったことで、一気に販売が上向きになりました。ここがビフェスタにとってのターニングポイントだったと思います。
国籍が違っても女性が求めるモノの本質は世界共通
マンダムでは、各国の現地法人と連携しながら商品開発を進めています。ビフェスタも例外ではなく、新商品開発の際には各国から積極的に提案を行い、また年に1回開催される国際会議でも各国の代表が集まり、活発な意見交換が行われます。国籍が違えば商品に求められる要件が異なることも珍しくはなく、時には正反対の意見がぶつかり合うこともあります。
そのような場面に遭遇して、あることに気が付きました。それは、かわいいものや美しいものに対する女性の価値観は世界共通であるということです。また、女性は楽しいイベントが好きだという点で一致していることにも気づきました。そこで、マンダム社内のインナーブランディングの一環として、「ハッピービフェスタデー」を制定することを提案しました。ビフェスタの発売日である8月29日には、アジア各国のスタッフ、そして愛用者の皆さんといっしょに誕生日をお祝いしようという趣旨の企画です。既存の展開国に加えて、8月から新たにビフェスタの販売を開始したインドネシアも参加しました。
2018年が初の試みだったのですが、わたしは東京オフィスで開催する第1回目のイベントのプロデュースを担当しました。結果は、もちろん大成功です。多くの愛用者の方にご来場いただき、ビフェスタらしい、現代女性に寄り添うアットホームで、でもちょっとオシャレな体験型のイベントが開催できました。このようなイベントが開催できたのも、「生活者発・生活者着」の商品作りを原則とし、「人間系」企業であることを理念としているマンダムならではだと思います。
ビフェスタを人生の代表作に
もし、昔の自分に一つだけアドバイスするとしたら、「思考も人への接し方ももっと柔らかくしなさい」と伝えたいです。台湾にいたとき、上司と仕事の進め方を巡って衝突したことがあり、会社を辞めようか真剣に悩んだ時期がありました。そのとき、別の上司から「立場が異なれば、物の見方も変わるものだよ」とアドバイスされたことを覚えています。当時のわたしは、まだ若かったせいもあり、きっと生意気だったのでしょう。しかし、その一言で救われた気持ちになり、会社に残ることができました。マンダムの企業理念に深く共感していたこともありますが、自分の大好きなブランドであるビフェスタを手放したくないという思いも強かったからです。
何年かかるかわかりませんが、ビフェスタを世界中の女性たちに愛されるブランドにしたいですね。わたしの人生の代表作だと胸を張って言えるようなブランドにすること、それがわたしの夢です。
■会社概要:株式会社マンダム
本社所在地:〒540-8530 大阪市中央区十二軒町5-12
設立:1927年(昭和2年)12月23日
代表者:代表取締役 社長執行役員 西村元延
資本金:113億9,481万7,459円(2018年3月31日現在)
上場証券取引所:東京証券取引所 市場第一部
従業員数:574名(連結 2,694名)(2018年3月31日現在)
主要な事業内容:
1. 化粧品・香水の製造および販売
2.医薬部外品の製造および販売