「天然成分でゴキブリ退治」は絶え間ない“挑戦”の頂
2016年3月1日、アース製薬は、“化学合成殺虫剤”を一切使わないゴキブリ防除商品「ナチュラス 天然ハーブのゴキブリよけ」と「ナチュラス 凍らすジェットゴキブリ秒殺」を発売。化学合成殺虫剤に代わる有効成分には、天然ハーブ(ハッカ油)を用いた。さわやかな香りで人体への影響も少なく、小さな子供やペットのいる家庭でも安心して使えるなど、メリットも多い。従来のゴキブリ防除商品のイメージを覆す「ナチュラス」シリーズの開発の裏側について、同社の油野秀敏氏に話を聞いた。
ゴキブリ防除のイメージを変えたい
「ゴキブリ防除商品が安心して使えることを、もっとわかりやすくアピールしたい」――。殺虫剤トップメーカーのアース製薬は、常にこの課題と向き合い続けてきた。ゴキブリ防除商品の主成分であるピレスロイドは、もともと除虫菊の成分を合成したもの。誤って人に噴霧し吸引しても、一般的な使用量であれば健康への影響がないことは科学的に立証されている。
「しかし、『虫を殺す』というイメージが先行し、使用に不安を感じる人が少なくありません。市場調査を行っても、子供への影響を懸念する人が多いのが実情です」とアース製薬株式会社でブランド戦略を統括する油野秀敏氏は語る。
イメージを一新するには、誰もが納得する商品を作るしかない。ここから同社の“挑戦”が始まった。新しい成分として目を付けたのが、ゴキブリが嫌う「天敵」として知られる天然ハーブだ。香りが良く人には癒し効果をもたらすが、ゴキブリにとっては命取りになりかねない。ゴキブリがハーブ系成分の分解酵素を持たないことが、その理由と言われている。
ハーブはアロマオイルや料理などに使われており、人にも環境にもやさしい。ただし、その種類は100以上ある。「一つひとつの天然ハーブについて濃度や配合量を変え、何パターンにも渡って実験を繰り返しました。重視したのは『効果』と『使用感』です」(油野氏)。なかには効果が高くても、成分を高めると人に不快な匂いになってしまうものもある。「人には不快でなく、ゴキブリには効く――。実験はその“正解”を求めるための試行錯誤の連続でした」と油野氏は振り返る。
ハッカ油で「忌避剤」という新市場を創出
2008年、競合に先駆けてローズマリーオイルを主成分とする「天然ハーブのゴキブリよけ」を発売。約4億円の売り上げを記録するヒット商品となった。その一方で、ゴキブリ忌避は従来にない新しい効能であるため、医薬部外品の承認を取得して欲しいと厚生労働省から要請を受け発売を一時中止した。
この要望を真正面から受け止め、日本初の医薬部外品の登録を実現するため研究開発を繰り返し、「効果と使用感をより高める“正解”が他にもあるのではないか」と真摯に取り組んだ。
その強い思いは、8年後に結実。長年にわたる実験の結果、前商品を上回る成果をもたらす成分を発見したのだ。たどり着いたのが「ハッカ油」である。実験で高い防除効果を確認。ハッカ油を一定量噴霧すればゴキブリが死ぬ。その匂いをゴキブリが非常に嫌うこともわかった。箱の中にハッカ油を置くと、どのゴキブリも箱から逃げ出して寄り付かなくなる。「忌避効果は従来のピレスロイドより高い」(油野氏)。
製品化に向けて、容器の形状にもこだわった。どこにどのように置くかは家庭によって様々だ。限られたスペースに、どのように置いても効果が発揮できるようにしなければならない。「立てても横にしても使える四角い形状にし、細かい穴をたくさん開けることで、置き方によって成分が出る穴を塞がないように工夫しました」と油野氏は明かす。
この効果を裏付けるため、実験に基づくエビデンスを蓄積し、第三者機関による検証も実施した。商品は「ナチュラス 天然ハーブのゴキブリよけ」と命名し、2016年3月から発売を開始した。「ハッカ油の成分にたどり着くことで、ゴキブリを寄せ付けないようにする『忌避剤』という新しい商品カテゴリーを確立できました。殺虫剤よりライトな商品で、予防効果が高い」と油野氏は胸を張る。
神出鬼没のゴキブリを“冷撃秒殺”する新商品も
アース製薬の“挑戦”はこれだけにとどまらない。ハッカ油成分で「忌避剤」という新市場を作り上げたが、ゴキブリは神出鬼没。思いもよらぬところに姿を現すこともある。既存商品の「ゴキジェットプロ」などを使えばゴキブリを駆除できるが、せっかく天然成分で忌避するのだからと、ゴキブリ退治も天然成分にこだわった。「ハッカ油はゴキブリが忌避するだけでなく、強い殺虫成分があります。これをうまく使って、新しいゴキブリ駆除用の殺虫剤を作りたかったのです」(油野氏)。
ゴキブリを駆除するには、一度に大量のハッカ油を噴霧しなければならない。動き回る標的に大量のハッカ油を噴霧し続けるのは難しい。そこで編み出したのが「冷撃」との併せ技である。ゴキブリを凍らせて動きを止め、ハッカ油成分で秒殺する。
冷撃には不快害虫用の「凍らすジェット 冷凍殺虫」などに使われる技術を応用した。エアコンや冷蔵庫にも使われている気化熱を利用する仕組みで、ガスが気化する時に周りの熱を奪って瞬時にマイナス85度まで温度降下させる。
ゴキブリの生命力はたくましく、凍らすだけでは死なないため、アース製薬では冷撃製品をゴキブリ用としては発売してこなかった。だが、凍らせてゴキブリの動きを止めている間に、ハッカ油成分が浸透すると致死に至ることを突き止める。「動きが止まっているから、少量のハッカ油でも効き目が大きい。冷撃とハッカ油の“ハイブリッド効果”で、天然成分による新しい殺虫剤をつくり出せたのです」と油野氏は説明する。
これを製品化したのが「ナチュラス 凍らすジェットゴキブリ秒殺」。3秒ほど噴霧すればゴキブリを駆除できる。ハッカ油が有効成分なため、スプレーした後もベタつきやあと残りがない。香りもさわやかだ。
“ナチュラス”シリーズは化学合成殺虫剤を使わない、日本初(2015年12月、アース製薬調べ)の天然ハッカ油を有効成分とするゴキブリ防除商品。小さな子供やペットがいる家庭、食品まわりでも気にせず利用できる。「安心・安全な商品を求める消費者のニーズがあることはわかっていましたが、そのニーズにシーズが応えたことで、まったく新しい商品を作り上げました」(油野氏)。
化学合成殺虫剤も安全性の高い商品だが、イメージ先行で使用を控える消費者も少なくない。「“ナチュラス”シリーズは、そのイメージを変えるきっかけづくりになるでしょう」と油野氏は期待を込める。夏は害虫の活動が盛んになる時期だ。これからの季節、生活の快適度を高めるアイテムの1つとして“ナチュラス”シリーズを使ってみてはいかがだろう。